リハビリテーション体育とは

リハビリテーション体育とは

心身に障害を持つ方・心身の機能が低下した方等に対し、リハビリテーション、健康づくり、生きがいづくり等の一環として、体育・スポーツを用いることをい う。リハビリテーション体育に携わる者は、体育・スポーツに関する知識と実践の力を有することはもちろん、対象となる人の障害等に関する知識・リハビリ テーションに関する基礎知識を有することが必要となる。

リハビリテーション体育の領域と内容

リハビリテーション体育が実践される場面には、リハビリテーション病院・各種社会福祉施設・スポーツ施設・地域・個人生活の場所等、さまざまな場所で、さま ざまな目的を持った取り組みがある。病院や施設などでは、運動学や神経学的な観点にたって、体育・スポーツの特性を用いて治療・訓練として基本的な身体づ くりをめざして行われている。また、スポーツ施設や地域社会などでは、スポーツすること自体を楽しむため、あるいは健康づくりのために行われている。

さまざまな領域でさまざまな取り組みがあるとはいえ、それがまったくかけ離れて存在するのではなく、医学的な配慮を多く必要とする段階から徐々にその必要がなくなっていくという障害者の総合的なリハビリテーションの連続的な流れの中で理解する必要がある。

中途の肢体不自由者の場合について、これらの関係とそれぞれのリハビリテーションの流れにおける内容を一例として表1に示してみた。表の縦軸は上から下に向 けて受傷後の時間的経過、および医学的は配慮のウエイトを示している。対象者のリハビリテーションの段階に応じて、リハビリテーション体育の関わりも変化していることが理解できるであろう。リハビリテーション体育に関わる者は、体育・スポーツの持つ特性を理解し、対象者の目的に応じて柔軟に処方できる力が必要となる。

リハビリテーション体育の方法

表1は中途の肢体不自由者を想定してリハビリテーションの流れを記載しているが、先天性の障害児に対するリハビリテーション体育(ハビリテーションの方が適切かもしれない)の流れ、知的障害児・者に対するリハビリテーションの流れ等は、表1とは異なるだろう。
表1.リハ各段階におけるリハ体育の関わり

リハビリテーション体育の評価

評価方法についても、多くの方法が考えられる。健常者で用いられるスポーツの評価を当然用いることは可能である。また、リハビリテーション体育独自の評価方法も存在するが統一されたものが少ないのが現状である。一方、理学療法や作業療法の評価に用いるMMTなど、他職種で使用される評価方法の使用も対象者を 把握する上でかかせない。今後リハビリテーション体育を確立していく上でも統一した評価方法の確立は大きな課題といえる。ただし、評価は、あくまでリハビ リテーション体育の効果を客観的に示すための指標であり、評価のための訓練等にならないように注意しなければならない。

リハビリテーション体育に携わる専門職の養成

リ ハビリテーション体育に携わる者の多くは、現場で経験を積みながらリハビリテーション体育の専門家としてその理論と実践を構築している。平成13年に日本 リハビリテーション体育士会が発足し、リハビリテーション体育に携わる者のつながりを強化するとともに、その資質の向上と将来的には専門職としての地位確 立に向けて動きだしたところである。リハビリテーション体育に携わる専門職の養成校は、現状では国立身体障害者リハビリテーション学院リハビリテーション 体育学科1校のみであるが、毎年卒業生を全国各地に送りだしており、徐々にではあるが各地域で活躍の声が聞かれるようになってきている。

運動療法(スポーツ訓練)の変遷※

各種運動の治療・訓練、体育への展開

健 康増進や保健だけでなく、病気や外傷の回復、運動障害の治療としておこなわれてきた運動は、既にギリシャ時代からおこなわれていたが、近代(19世紀初 期)に入り、ティソットやリングこれら各種の運動を集大成し、体系化した治療的な体操を確立した。この治療体操の流れは、20世紀初頭に大きく次の二つに分かれた。

一つは、治療体操を医療の中での治療として、特にポリオの流行に対応するため、筋力増強訓練を中心として発展した。旧 西ドイツでは、1958年に資格制度を設け、国家資格を有しているものだけが医師の監督下で治療・訓練をすることができるようになった。これが理学療法の 発祥である。後年、脳卒中などの中枢性疾患の患者が増えたことにより、神経生理学的な法則をとり入れて、さらに独自の発展をした。

他の一つは、体育への発展である。これらの体操が有する身体的、健康的利点は身体による教育、身体活動による人間形成をめざすことに有用であると考えられ、学校教育、すなわち体育として、学校に取り入れられるようになった。

さ らに、欧米諸国では、体育を姿勢の矯正をはじめとして、治療としても取り入れていた。後には、障害を持つ児童にも体育を取り入れた。治療体育、矯正体育、 整形外科的体育、発育体育、特殊体育など様々名称が用いられおこなわれた。何を目的とするかという視点の強調の仕方、あるいは歴史的な発展に伴って名称が 異なっている。

現在では、低体力者のスポーツ活動を総称して「Adapted Physical Activity」というようになった。関係者の学会があるが、身体障害、知的障害、重度・重複障害、精神障害、高齢者、内部疾患・障害、健康づくり、疾病の予防などの領域を含んでいる。

リハビリテーションへのスポーツの導入

1944 年にイギリスのストーク・マンデビル病院が開設された。病院長のグッドマンは障害者の治療にスポーツ活動の重要性を認識しており、これをシステムとして臨 床に取り入れて効果を上げ、スポーツ習慣を障害者自身に植えつけることに成功した。脊髄損傷の治療とリハビリテーションの方法を確立し、健康な障害者とし て社会復帰させたこの病院の基本的理念は現在も踏襲されている。

グッドマンは著書の中で、障害者がスポーツをおこなうことの利点として、次の3点をあげている。

治療手段として

身体的適応、筋力、調整力、持久力など身体機能を回復するために有効である。

レクリエーション、心理的手段として

スポーツの持つ遊戯性が意欲と自発性を取り戻して、重度障害者にありがちな、孤立した自己中心的な心理状態から心を開くためにもよい手でである。

社会への身体的、精神的復帰の手段として

障害者が社会と積極的に接触しようとする意識が芽生え、社会の周りの人々と再融和が可能になり、社会参加の上からも大きな意義を有している。

※「運動療法士のありかたに関する検討委員会報告書」(平成9年3月31日、国立身体障害者リハビリテーションセンター)より抜粋

リハビリテーション体育学科のカリキュラム

基礎科目            

統計学、情報処理演習、障害者心理学、学習心理学、運動心理学、臨床心理学、生理学、運動生理学、運動生化学、解剖学、トレーニング原理、栄養学、救急処置 など

専門基礎科目

リハビリテーション概論、社会福祉概論、理学療法・作業療法・言語療法概論、義肢装具論、リハビリテーション医学、整形外科学、臨床神経学、内科学、病理学、精神医学、老年医学、運動学概論演習、医学的検査・診断法 など          

専門科目

運動解析学、運動処方学概論、運動負荷試験概論演習、運動プログラム管理、生活習慣病とその予防、健康づくり運動の理論と実際、運動処方演習、運動処方実習、肢体不自由者指導演習、感覚障害者指導演習、知的発達障害者指導演習、精神障害者指導演習、高齢者指導演習、セラピューティック・レクリエーション概論演習、野外活動、競技別種目演習概論、競技大会演習、指導実習、特別研究 など

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